教員の現代経済ウォッチング


Vol.36 【2010年9月】

vol.30 政府の「経済見通し」 北坂 真一

大学入学後の最初の経済学の講義は,「限界効用逓減の法則」でした。冒頭,1杯目のビールの味は格別に美味しいが,2杯目,3杯目と飲んでいけば,だんだんとビールの味が落ちていく。すなわち,1杯目から追加的に飲んでいけば,ビールから得られる追加的満足度,いわゆる限界効用が下がっていくと。未成年の飲酒は法律違反ですが,当時入学する大学生は,現役よりも1浪,2浪の学生が圧倒的に多く,コンパ(飲み会)をすれば,飲酒は常識ということで,先生もそれを前提に話を進めているわけです。因みに小生も,浪人中の6月初旬の「熱田祭」ではじめてビールを飲みましたが,そのとき,ビールを2〜3本空けました。以後,今日までやまらずにいます。これは蛇足でした。

しかし,この講義1回限りで,後は休講が続き,試験はどうなるかとヤキモキしていたら,この講義で先生が翻訳・指定された本(ライオネル ロビンズ著『経済学の本質と意義』)から出題するという情報が入ってきました。それは先生からの指示でなくて,合格者数の多い名門の高校出身者の先輩の情報で,予想通り,経済学の前期試験問題は,「個人間の効用の比較可能性について述べよ」でした。事前に過去問の解答を暗記して事なきを得たしだいですが,今日の講義回数の制約を思えば,当時の講義は全く野放し状態でした。

それでは,この「限界効用逓減」を財・サービスから得られる効用ではなく,所得に置き換えて「所得の限界効用逓減」を仮定し,つぎのような問題を検討してみることにしましょう。「正常な硬貨を投げて表が出れば100円を受け取り、裏が出たら100円を支払う」という約束の賭けは多分成立します。しかし,「正常な硬貨を投げて表が出れば10,000円を受け取り,裏が出たら10,000円を支払う」という約束の賭けは成立しません。なぜか?

そこで,ある人の小遣い(所得)は,月5万円としましょう。100円の賭けをすれば,勝てば小遣いは50,100円,負ければ49,900円となりますが,この100円の増減で追加される効用・負の効用はほとんど無視しうる大きさです。したがって,100円の賭けはほとんど痛みを伴わないので,賭けは成立します。しかし,10,000円の賭けをすれば,勝てば小遣いは60,000円,負ければ40,000円となり,10,000円の増減で追加される効用・負効用は必ず喜怒哀楽を伴います。しかも,所得の限界効用逓減の仮定より,10,000円の減少に伴う負効用は絶対値で,10,000円の増加に伴う効用を上回るので,10,000円の賭けは成立しません。

それにもかかわらず,実際には10,000円の賭けをする人がいるかもしれません。経済理論では,こういう人を危険愛好者(risk lover)と呼び,上述の10,000円の賭けをしない人を,危険回避者(risk averter)と呼ぶのです。




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