Vol.51 【2012年1月】
近年,自転車への関心は高まっていると感じられます。CO2排出量の削減や省エネルギーという地球環境的な視点だけではなく,交通渋滞回避,低コスト移動手段,健康志向という観点からも,自転車の価値が見直され,自転車通勤,自転車宅配便,子供乗せ自転車,自転車への法的規制強化という非常に日常的な次元においてもメディアで取り上げられることが多くなっています。こうした自転車への関心の高まりは車社会が転換を迫られていることの証左と考えられます。皆さんの親世代の方々の青年期から,車社会は広範な社会層に浸透しました。20年,30年前は一家に自動車一台というイメージがもてはやされていましたが,このイメージは男性世帯主が平日に夜遅くまで働き,女性が家事労働を担当し,週末に子供を含めた家族団らんでどこかにドライブに行くというものでした。やがて車社会はさらに浸透し,高額所得世帯の場合には「一家に一台」どころか一人に一台という家庭もあります。しかし,「一家に一台」の前提となる家族像に変化が生じ(単身世帯の増加,離婚率の上昇,女性の社会進出,非正規社員の増加,貧困層の増大),自動車を購入することを手控える人々(若者の自動車離れ,子供の送り迎えに車より自転車を選択する親,自動車を購入・維持する負担に耐えられない貧困層)が増加し,そして3月11日の大震災があたかも無尽蔵であるかのようなエネルギーとそれによる生産・消費という社会の在り方に疑問をなげかけ,省エネルギーという観点でも自転車がさらなる注目を浴びるでしょう。
これまで自動車に関する研究は数多くなされてきましたが,自転車に関する研究はほとんどなされてこなかったと言えます。しかし,1985年にHounshelの大著(翻訳書はデーヴィッド・A・ハウンシェル『アメリカン・システムから大量生産へ』名古屋大学出版会, 1998年)が出版され,自転車生産がベルトコンベヤーによる自動車の大量生産システム成立への重要な前提を形成したと位置づけられました。私も19世紀から20世紀への世紀転換期のドイツにおける自転車の生産・販売・普及について研究しています。
このように,車社会が転換を迫られ,省エネルギーとして自転車が再び注目を浴び始めています。このような現象は自転車の重要性の「再発見」とでも言えるでしょう。時代,時代の文脈でもともと重要なことが「再発見」されることは2011年3月の震災で「絆」が再確認されたことからもよく理解されます。みなさんが大学に入ってするべきことは勉強や友達とのコミュニケーションを通じて,他人を「発見」し,自らを「再発見」することだと思います。
