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教員の現代経済ウォッチング

Vol.12 郵政民営化とSPEEDO!

2006年に日本郵便株式会社が発足し郵政民営化のプロセスはスタートしました。そして段階的かつ部分的に民間の資本が導入されていくスケジュールも決定されました。そして2007年10月には郵便、銀行、保険そして窓口事業ごとに分社化し、それら4つの事業会社を日本郵政会社が統括するという構造になりました。小泉元首相が行った経済改革の本丸として位置づけられたこの政策は、決定するまでに様々な議論が行われました。政府の見解によると、郵政民営化を実施することで、市場競争がおこり郵便事業の効率化が達成され、事業の多角化が起こるとしていますが、そのプロセスやシナリオについての説明は不十分です。私の個人的な見解では、民営化を行えば必ず効率性が改善され国民全体の厚生も改善されるというロジックは、科学的根拠や実証例に乏しいと考えています。

そこで今回は、郵政民営化の持つ心理的影響について考えてみます。それはイギリスのSPEEDO社の水着を着けた選手が次々と世界記録を更新し、日本選手も採用の意向を示している現象に似ていると思います。確かにSPEEDO社の水着を着れば、他の水着を着たときよりも速く泳げるという科学的根拠や実証例が示さています。でも実際にこの水着を着れば、より速く泳げる効果が、100%だと言い切るのは無理があるではないでしょうか?それよりも「SPEEDOの水着を着れば必ず速く泳げる」と信じることの方が(特に日本人にとって!)より速く泳ぐには重要なのではないでしょうか?私は民営化によって効率性が高まるというシナリオにもこういう心理的作用が必要であるように思います。実際に経営効率が良くなる効果とは、「民営化すれば、必ず効率性が良くなり国民の厚生は改善される」と郵政事業にかかわる人や国民が信じてそれを実行することにあると思います。これがベースにあれば、競争が実際に起こらなくても郵政民営化による生産性の上昇は、もたらされる可能性が高いでしょう。ただやみくもに現場を知らない官僚や政治家が描いた目標を達成させるために、現場の声を無視して人員を削減し、社員の給料を下げ、過酷な労働条件を課すことで、生産性が向上したとし、民営化の効果だと評価するのは問題です。すでにそのような無謀な人事政策も報告されています。それは本来の民営化政策の持つ心理的作用を無視した政策だということを認識すべきです。

現時点では「民営化の効果」を信じさせるための科学的根拠や実証例が不足しています。民営化の本家であるイギリスでは民営化後、確かに公共サービスの価格が下がったのですが、公共サービスの安全性・品質の低下や過当競争など様々な問題が生じています。このような事例を検討せず、民営化を国民全体の経済厚生の観点からの議論することが不十分になっています。そして「民営化を実施する場合は、所有権を素早く民間に委譲すればするほど効率性が高くなる」という科学的分析の結果も、今回の民営化政策では考慮されず、そのプロセスは非常に長期的になっているのが気になります。民営化を成功させるためには、まさにこの“SPEED(O)!”が必要だと思う今日この頃です。

和田 美憲和田 美憲
専任教員紹介
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