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教員の現代経済ウォッチング

Vol.21 中国に「和諧社会」の実現は可能か?

私は、中国の企業改革の実態と、そのなかで労働者の働き方がどのように変化したのかを検討することによって、中国政府がとなえる和諧社会(調和のとれた社会)とは一体何なのかを明らかにしようと考えています。

かつての中国では、企業は基本的に国営でした。そして企業は、社会主義経済推進の支柱であると同時に、体制の支柱としての役割をももち、生産の場としてだけではなく、生活の場としても位置づけられていました。企業は、さまざまな手当や福利厚生をつうじて、労働者とその家族の生活、さらには就業までも保証してきたのです。このような企業を中心とした社会を、単位社会とよんでいました。
横井 和彦

横井 和彦

写真1  写真2

1978年からの改革・開放政策によって、市場経済化や企業形態の多様化が進みました。新たに出現した外資系企業や私営企業は、単位社会の担い手ではなく、負担が少なく大いに発展しました。けれども旧来の国営企業は、国有企業と名を変えましたが、それでも負担は重く、経営不振に陥る企業が続出しました。その改革のために、雇用の面では、それまでの中央・地方政府による労働者の企業への計画的配分がなくなりました。分配の面では、企業業績と貢献度に応じた職務給・能率給が導入された一方で、さまざまな手当や福利厚生など、企業による保障は撤廃されました。

その結果、労働者には職業選択の自由が回復した半面、任期付雇用が全面的に導入されたうえ、大量の失業やリストラが顕在化しました。企業による保障に代わる社会保障も、存立基盤が弱く、負担と不安が増大しました。こうしたことを背景に、労働契約法が制定されました。昨年から、中国に存在するすべての企業は、勤続10年または2回連続して固定期間労働契約を締結した場合において、労働者と無固定期間労働契約(終身雇用)を締結する義務を課せられたのです。

これについて中国では、労働者の権利を大幅に強化すると同時に、企業の利益にも十分配慮した、調和のとれた社会をめざすものであると強調されています。けれども安価な労働力を求めて中国へ多くの企業が進出している国々では、企業の負担が増大することを懸念する声が高まっています。中国企業においても同様で、駆け込みで大量リストラを行おうとした企業もありました。折からの世界的不況もあいまって、実際に倒産する企業や解雇される労働者もでてきました。

共産党幹部の腐敗があいつぎ表面化する一方、改革・開放政策がもたらしたさまざまな格差がますます広がり、三信危機(社会主義・共産主義に対する信仰、共産党に対する信任、政府に対する信頼への危機)がささやかれるなか、この労働契約法を契機として和諧社会は実現できるのでしょうか。この問題は、たんに隣の国のことであったり、中国に進出している企業にだけ関係していることではありません。日本でも、年功序列型賃金から成果主義賃金への転換、非正規雇用の拡大などによって、格差が広がり、企業での働き方が大きな問題となっています。決して他人事ではなく、みなさんにも大いに関係している問題なのです。

横井 和彦横井 和彦
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