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教員の現代経済ウォッチング

Vol.23 ケインズとシュンペーター

ケインズの『雇用、利子および貨幣の一般理論』が出版されたのは1936年。アメリカ発のバブル経済の崩壊が世界を恐慌に陥れた時期と重なります。この時期に企業や家計の財・サービスに対する需要は急激に低下しました。しかしながら、賃金などの価格変数の調整は一般に緩慢なことから、マクロ経済は深刻な需要不足の状態に陥りました。ケインズは資本主義経済のもとで生じうるこのような需要不足の経済を理論的に体系化し、政府による需要喚起政策の必要性を説きました。
東 良彰

東 良彰

需要を喚起する方法として、現代においては財政政策に関するさまざまな問題が指摘されるものの、金融政策についてはまだ議論の余地があるといえそうです。日本がデフレ不況に喘いでいた1990年代後半にも、バーナンキ教授は「自ら機能麻痺に陥った日本の金融政策」と題する論文の中で、大幅な需要不足を解消するために中央銀行がとりうるいくつかの景気刺激策について論じています。そのバーナンキ教授は現在FRB議長に就任して、バブル経済が崩壊した米国の深刻な不況と戦っています。議長の推論どおりに、景気は早期に回復に向かうのか?金融システムの安定ははかられるのか?仮にデフレ不況からの脱却を果たせたとして、今度はそれに続くインフレーションをうまく収束させることができるのか?以前にこの論文を私のゼミで輪読したこともあり、矢継ぎ早に繰り出されるバーナンキ議長の金融政策に目が離せません。グローバル経済の一市民として、また一経済学者として、今後とも米国経済の動向に注目していきたいと思います。

ところでケインズの一般理論が公表された3年後の1939年には、オーストリア出身の経済学者シュンペーターが『景気循環論』を発表しています。シュンペーターによれば、世界恐慌とは周期の長さが異なる3つの景気循環の谷がたまたま重なった時期とされ、供給側の変革を考慮しないケインズ一般理論の視点とは異なる分析が提示されています。具体的にシュンペーターは、景気の好況が企業家精神にもとづく新結合(=イノベーション)によって説明されるとし、さらに経済の不況を新結合が生み出す新たな状況への適応過程として位置づけています。つまりシュンペーターは景気循環こそが経済成長の源泉であると考えていたのです。

残念ながら『景気循環論』は当時の経済学者にあまり影響力を持ちませんでした。シュンペーターの分析によれば、不況が訪れてもいずれは再び企業家精神にもとづく新結合によって好況がもたらされるはずですが、「長期的に見ると、われわれは皆死んでしまう」と訴えるケインズの影響力の方がはるかに大きかったのです。つまり深刻な不況を放置することの代償は計り知れないとする意見が主流を占めていました。たしかに、効率的な企業も非効率的な企業もすべてを倒産の危機に追いやる極端な需要不足の状態は、大胆で迅速な需要喚起政策によって解消されなければなりません。

しかしケインズの学説にも問題がないわけではありません。この学説に依拠するだけでは、政府が十分に民間需要を喚起できたとしても、バブル経済の再発を招き、また元の木阿弥に戻るとする懸念が生じます。一方、シュンペーターの分析によれば、いずれは再び企業家精神に基づく新結合が起こり、衰退する企業が勃興する企業にとって代わられ、それによって非自発的な失業も解消される局面が訪れると考えられます。資本主義経済にはそのような力が備わっているとシュンペーターは考えていたのです。

昨今の世界不況によって資本主義経済に対する批判が高まっており、ケインズ政策による修正資本主義の立場が再び脚光を浴びています。これは当然の流れであるといえるでしょう。しかしながら、その立場を超えた極端な資本主義否定論に対しては、私は少なからぬ違和感を覚えます。今後とも新たな技術革新の波を我々が必要とするかぎり、良きにつけ悪しきにつけ、資本主義経済の力を借りざるを得ないというのが実情ではないでしょうか。

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