こちらに共通ヘッダが追加されます。
  1. 経済学部/経済学研究科ホーム
  2.  > 教員の現代経済ウォッチング
  3.  > Vol.25 関係性の経済学:正しい関係

教員の現代経済ウォッチング

Vol.25 関係性の経済学:正しい関係

近年、世界人口の増加、環境の劣化や資源の枯渇、気候変動などの問題が深刻となっています。このままでは、人類のウェルビーング(幸福)や存在そのものが脅かされてしまうのではないかという懸念が高まっています。こうした懸念を反映してか、「サスティナビリテー(持続可能性)」という言葉をメディアで見かけることが多くなりました。人間の社会や生物のコロニー(群れ)が、持続可能であるかを判断しようとする際、「正しい関係性」という言葉が、重要な概念ではないかと考えています。対内的にも対外的にも正しい関係を構築できない生物種・集団は、持続可能とはなりえないでしょう。
和田 喜彦

和田 喜彦

正しい関係を定義することは難しいのですが、米国の保全生物学者レオポルドは、「物事は、生物の共同体の完全性、安定性、美を保全する傾向を有するときに正しく、その逆の傾向を有するとき誤っているのである」と主張しましたが、大変示唆に富んでいます。これは単に生物界だけの話ではなく、人と人との関係、2.人と自然との関係、3.現世代と将来世代との関係などにも適応できる概念でしょう。関係性が正しいものへと変化してゆくかどうかが、持続可能性を判断する際の重要な基準ではないかと思うのです。

たとえば、米国ではクエーカー教(キリスト教の一派)の人々が、奴隷所有者と奴隷との「関係は正しくない」として、奴隷制度の廃止を力強く主張しました。そうした努力の甲斐あって、奴隷制度は廃止されました。当時、経済発展のためには奴隷は必要だというのが主流の考え方でしたので、相当の反対に遭ったようです。

昨今、低炭素社会の実現が声高く叫ばれています。もちろん大気中の炭素濃度を減らすことは気候変動を防止する上で重要ですが、そのために、正しい関係性をもった社会を分断するような技術は、むしろ持続的な社会の実現に逆行します。その典型事例は、瀬戸内海の西端に位置する上関に原子力発電所を建設しようとする計画です。地元住民が賛成派と反対派に分かれ、大きな分断ができてしまいました。似たような分断がどの核関連施設でも起こっています。また、核施設の清掃・点検に従事する人々の放射線被曝と健康被害も隠された「不都合な真実」です。こうした人々は、現代版の奴隷と言えます。奴隷を必要とする社会は、持続可能と言えるでしょうか。核技術は、現世代と将来世代の関係をも悪化させます。使用済み核燃料は、使用前に比べて放射線量が一挙に1億倍に増えますが、将来世代はこのような危険物を100万年以上管理し続けなければなりません。漏れ出る危険性もあり、核のゴミを受け入れると表明した自治体は、狭い日本ではおろか、広い米国でも皆無です。

バクテリアの一種で、土壌粘液細菌というものがあります。栄養が豊富にある場合は、それぞれの細胞が競って自己増殖を盛んに行うのですが、栄養源が希少になると、細胞たちが協力し合って自己増殖を自ら抑制し、コロニーの絶滅をくい止める集団行動をとるそうです。人類は、進化の過程で、危機に際して集団として協力し、種の存続を守る力を失ったとは私には思えません。今こそ人類の真価が試されている時代はありません。時代状況は、関係性の原理として、競争原理より、むしろ協調原理を必要としているようです。

和田 喜彦和田 喜彦
専任教員紹介
.