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教員の現代経済ウォッチング

Vol.28 アダム・スミスが残した問題

18世紀の後半に活躍した経済学者アダム・スミス(1723-90)は、一般に経済学の父と呼ばれています。スミスは、利己心に基づいた個人の利益の追求が、社会を豊かにし、人々に幸福をもたらすという思想を展開しました。いわば、自由主義経済思想の元祖のような人です。その主著の『国富論』(1776年)は非常に有名です。

しかしスミスの著書としては、それ以外に1759年に初版が出版された『道徳感情論』があり、スミスが亡くなる数ヶ月前には第6版が出版されています。その中では、次のような議論が展開されていました。
横山 照樹

横山 照樹

スミスは、社会の人々の地位を上流、中流、下流の3つに分けます。そして中流と下流の人々については、「徳への道と財産への道」が一致していると言います。この人達は、地位も特権もないからまじめに働いて、他の人の信頼を得ないと生活していくことができないからです。ところが、スミスによると、上流の地位にある人はこれとまったく違っています。

我々は富裕な人々や地位のある人々に感嘆し、彼らのまねをしようとします。すなわち、彼らは他人からの賞賛が得られるのです。そのため多くの人達は、富裕な人びとにあこがれて、富を求めることになります。しかし、スミスによると、富を得るために「徳への道を放棄する」ことになると言うのです。

なぜなら、成功さえすれば過去のことは忘れられてしますので、富を得るためなら手段を選ばないからだと言います。そして大部分の人は失敗するのですが、それに成功した人は、「一般民衆の、もっとばかげてはいるがもっと罪がない歓声のまっただなか」に、「あらゆる征服の誇りと、戦勝の凱歌のまっただなか」にいることになると言っています。

このような『道徳感情論』における議論を見ると、スミスは、自分自身の利益を追求する個人の活動が暴走してしまい、法律を無視して利益を求めるようになり、それを見た「一般民衆」が「歓声」をあげるような社会が生まれることを、危惧していたのではないでしょうか。そしてこれまでの資本主義の歴史は、スミスの危惧が杞憂ではなかったことを、示しています。

昨年のリーマンショック以降の世界経済の状況を見ると、スミスが指摘した問題に対する解答は、まだ与えられていていないように思われます。

横山 照樹横山 照樹
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