こちらに共通ヘッダが追加されます。
  1. 経済学部/経済学研究科ホーム
  2.  > 教員の現代経済ウォッチング
  3.  > Vol.32 公共投資と国債発行

教員の現代経済ウォッチング

Vol.32 公共投資と国債発行

よく不況になると、赤字国債による公共投資を実施して景気刺激をすべきであると唱える人がいる。また逆に、このような公共投資は実体経済にほとんど影響を与えず、将来世代にそのツケを回すだけだと主張する人もいる。マクロ経済学のテキストでは、前者の主張はケインズ経済学、後者のそれは新古典派経済学(または新リカード主義)の主張としてそれぞれ紹介されている。もっとも、経済学者の間では、景気対策としての財政政策に関しては、短期的には有効であるが長期的には効果がないとする見解が多い。

短期的な経済効果をみるために、思考実験として、例えば産業連関分析の手法を使うことにしよう。政府が建設業者に100億円の公共投資を請け負わせたとするならば、2005年の産業連関表を使うと、その需要を満たすためには、各産業の生産量が以下の計算結果のように増加しなければならないことがシミュレートできる。
久保 徳次郎

久保 徳次郎

農林水産業鉱業製造業建設電力・ガス・水道商業金融・保険不動産
2.0353.61359.869101.0162.78711.7055.5291.208
運輸情報通信公務サービス分類不明 合計
10.5843.9660.35317.7061.332 221.703
(単位億円)

しかし実際には、この公共投資のプラスの効果はもっと低くなると考えられる。また、いつまでもこの効果が続くというわけでもない。なぜならば、政府が公共投資をするための財源は税金か国債発行しかないので、いずれにせよ、現在あるいは将来、増税でこの公共投資の支出を賄わなければならないからである。このことはマイナス効果となって、経済に跳ね返ってくることになる。少なくとも長期的には、財政政策の効果は小さいと言われる所以である。

政府債務残高は2008年末で約834兆円であるが、日本の人口は約1億2700万人なので、国民一人当たりに対して657万円の借金を中央政府がしていることになる。ところが、郵貯を含めた日本の預貯金残高は800兆円以上あり、しかも資産運用能力の低い日本の金融機関はこの預金を原資に多額の国債を購入しているのである。これに日銀の公開市場操作による国債の購入を含めると、日本は巨額の国債を吸収する能力を国内に備えているということが言える。老人世帯のタンス預金を考慮すると、まだまだ日本は国債を吸収する余力があり、郵貯の貯金上限額の引き上げはその吸収力をさらに補強することになる。

日本にはどこまで国債残高を増やす余力が残されているのだろうか。はたして景気回復のための有効な手段はあるのだろうか。経済学者には、これらの問題に速やかにかつ的確に答えていくことが求められているのである。

久保 徳次郎久保 徳次郎
専任教員紹介
.