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教員の現代経済ウォッチング

Vol.33 なぜ金融危機は「スタグデフレーション」になるか

2007年のアメリカ・サブプライムローンに始まる金融危機が犬の尻尾であるにもかかわらず、実体経済という胴体を振り回しているといわれるだけでなく、金融では被害がさほどでなかったにしては実体経済での日本の被害が甚大であるのはなぜなのかという謎をも提起している。これは日本の経済学と経済学者に突きつけられた問題であり、経済学はこの謎解きができないかぎり、若者に魅力がない、無力な学問とみなされるだろう。

バブル崩壊から20年、最近では「失われた10年」が20年に及ぶとさえささやかれている。なぜこうなるのか。最初の10年の半ばの1995年ごろから日本はゼロ金利と量的緩和という迷路じみた洞窟にはまり込み出口を見失っているからであろう。
大野 節夫

大野 節夫

高度経済成長時代は有効需要創出のケインズ政策が過熱した景気をさまし、また不景気から離脱するために有効とみなされてきた。しかし、80年代に到来したスタグフレーション(スタグネーション+インフレーション)の低成長時代への移行はいまではグローバルな先進国での経済成長の停滞と土地や株式などの資産価格の低下のデフレの組み合わせを促進している。停滞とインフレならぬデフレとの新たな組み合わせは「スタグフレーション」と呼ぶことができるものを出現させる。利子率と利回りの上限をなす産業利潤率が低下しているなかで高コスト体質を克服しようとすれば、雇用労働者の賃金コストをいっそう低減させ、内需の源泉をやせ細らせ、スタグフレーションに落ち込む。三菱UFJ証券の水野和夫氏はゼロ金利でグローバルな円キャリートレードを促進した日本の金融政策を「オウンゴール」と呼んでいる(『金融大崩壊』NHK出版)。

ドル基軸通貨に依存する日本は自動車や家電等の輸出産業が主導権をとり、外需依存をつよめ、資産運用も困難になっても金余りが継続し、シャッター商店街が拡がり、内需も拡大せず、国内の産業経済の空洞化が進んでいる。

最大の内需をなすのは雇用労働者の貨幣賃金である。にもかかわらず近年の労働分配率での雇用労働者の賃金の取り分は低下し、賃金収入が絶対的に減少して貧困化が急速に進行している。事業仕分けが華々しく報道され、公共事業での雇用は増大せず、児童手当のようなばらまきは一過的なものにしかならない。世界でも有数の赤字国債の残高を国内の貯蓄で担保されている事態から税収不足を補うとして消費税で手当てすれば、成長率が低下しスタグフレーションを昂進させることにならざるをえない。日本は悪循環にはまりこみ、ぬけだす道が見えなくなっている。

いまなにをなすべきか。

これまでの経済学は貨幣賃金と産業利潤率でなく、実質賃金と金融商品の市場価格である利子率を取り上げてきたから、犬の尻尾で胴体を振り回す片棒を担いできたにすぎない。ゼロ金利はみずから成長率をゼロにすることである。グローバルな金融危機が事業と産業を振り回させず、さまよい込んだ洞穴から抜け出すために、なによりもゼロ金利からの「出口戦略」が必要である。

たしかにマクロ経済学からすれば、賃金と利潤は相反関係にある。しかし、自立して事業を営み同業他社と産業で競争している資本の企業は、高賃金での労働者の働きが自立した資本の事業の高賃金に値することを知っている。労働者を雇用する貨幣賃金と利潤とは正比例し、貨幣賃金と利潤は両立し、どちらも高くなることも低くなることもある。唯一の出口戦略は高貨幣賃金で優秀な労働者を雇用し、賃金に値する仕事をおこなわせて高利潤率の事業を構築することにある。

大野 節夫大野 節夫
同志社大学経済学部 名誉教授
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