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教員の現代経済ウォッチング

Vol.39 りんごの里とブラジルを結び付けるもの

この文章を今私は、築160年ほどの古民家で書き始めています。紅葉を見に訪れる観光客で賑わう京都を離れて、信州の人口5000人ほどの村に来ています。紅葉は京都とはまた違った美しさで、手入れの行き届いた古民家の軒につるされた干し柿や、白化粧をまとった山々とともに迫ってきます。ここには、ブラジルの友人とゼミの学生と一緒に滞在しています。今はみな寝静まっていますが、この場所では先ほどまで村長さんはじめ、村の方々と鍋をつついて団らんをしていました。

ブラジルの友人と、この村の人々、そしてゼミの学生を結びつけているものは何でしょうか。それはベーシックインカムという考え方です。ベーシックインカムとは全ての個人が生活に足るだろう所得の給付を無条件で享受することができるという考え方です。200年近い歴史がある考え方ですが、金融危機後ふたたび大きな脚光を浴びています。
山森 亮

山森 亮

ブラジルでは2004年に市民ベーシックインカム法という法律ができましたが、実際には給付に至っていません。政府が給付しないのなら自分たちで給付をしようと立ち上がったのがブラジルの友人たちです。2年前に自分たちの私財を投げ打って、サンパウロ郊外の人口100人ほどの小さな農村で、給付を始めました。現在はブラジル国内外から寄付を募り給付を続けています。最近ではさらに社会的な融資を行う銀行を設立しました。その結果コミュニティのなかで新しい小規模ビジネスが誕生したりしています。

現在滞在中のこの村は、りんごの収穫で大変忙しい時期です。りんご、なし、ぶどうなどの果樹園、米や小麦、野菜を作る田畑、そして山林が、広がっています。絵本にでてきそうな美しい景色は、コミュニティの人々の無給の協働作業によって維持されています。村に残りたい若者、あるいは村に惚れこんで移住してくる若者も多いのですが、しかし農業や林業だけで食べていける人は、ほんの一握りということもあり、若い世代は徐々に減ってきています。

こうした中で村長さんは、ベーシックインカムの村での可能性に注目し、これまで同志社大で行われたベーシックインカムの講演会などにも足を運んで下さいました。明日は村の公民館で、30人ほどの村民の方々との対話集会が開かれます。農村の経済的疲弊に対して、そしてそうした状況にもかかわらず住民の協働作業で何とか維持されてきた美しい風景に、経済学はどのような役割を果たしてきたのでしょうか。そのことが問われているような気がして、身が引き締まります。

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