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教員の現代経済ウォッチング

Vol.48 自由主義的温情主義の考え方による政策

京都の町屋には犬矢来(いぬやらい)という道路に面した外壁に置かれる主に竹でできた美しいアーチ状の垣根があります。これは実用的には犬や猫の放尿から壁を守るためのものです。小さな鳥居のマークが張られていることもあります。犬を散歩させている人にとって、鳥居のマークに向かって放尿させるのは気が引けます。犬矢来が強制的に放尿させないのに対して、こちらは人間の心理を利用する工夫です。最近、男子便器の中にマークが張ってあるものを見かけます。これは、そのマークに向かって放尿したいという男性の心理を利用して、便器周りが汚れるのをできるだけ防ごうとする試みです。誰も汚そうと思って使っているわけではないのですが、汚れてしまう。きれいに使ってもらうことによって掃除するコストを減らすことができますが、「きれいに使いましょう」「一歩前へ」などと表示するよりも、マークを張る方がきれいに使われていると思います。
北川 雅章

北川 雅章

経済政策の考え方はアダム・スミス以来の自由放任主義と国による介入を正当化する温情主義の間で大きく揺れ動いてきました。しかし、最近では「自由主義的温情主義」という考え方が出てきています。主流派経済学(ミクロ経済学)は合理的に行動する経済人(ホモ・エコノミカス)を前提とした理論を構築し、経済政策としても自由放任主義の考え方が主流ですが、1990年代以降、実験によって現実の人間行動がミクロ経済学の想定する合理的経済人の行動と異なることが明らかになり、行動経済学という分野が確立されてきました。

平成21年から家電エコポイント制度が実施されました。この政策は、節電・省エネを推進したいと潜在的に思っていても実行できなかった人々に対して、行動するきっかけを与えたのではないでしょうか。単に買い換えサイクルを前倒しにしただけで、制度が終われば反動で需要が減退するという批判もあるでしょう。細部の制度設計や実施方法にも改善の余地はあるでしょうが、省エネ機器の普及スピードが早くなったことは明らかでしょう。東日本大震災以降の節電要請にも貢献したと思われます。

行動経済学の知見により、人間はデフォルト(初期設定)の状態を参照水準として行動し、その参照水準からの悪化を避けようとする傾向が強いことが明らかになっています。つまりデフォルトの状態によって行動が影響されるわけです。人間の行動に、ほどほどに賢いが愚かな面もあるということが観察されるとすると、政策もそれを前提に、デフォルトを示してより望ましい方向へと自然に誘導していくような政策が求められるでしょう。それは、特定の選択を人々に強制するのではなく、また自由放任でもない政策になるはずです。厳しすぎて守れる人が少ないような規制はないか、逆に規制がなく野放図になっていて、多くの被害者を出しているような事例はないかなど、現在の政策や規制のあり方を見直してみる。望ましい資源配分を実現するために、自由主義的温情主義の考え方で人々の背中を後押しして行動させるような政策が必要だと思います。

北川 雅章北川 雅章
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