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教員の現代経済ウォッチング

Vol.49 経済圏EUの制度の維持

実質的に財政破綻したギリシャに対するEUによる支援を巡るニュースが連日伝えられています。幾つかのEU加盟国では支援の是非を問う投票において賛成を示す与党が強い反発を受けていることや、ギリシャがいったんEUを離脱してはどうかという意見も伝えられています。他国の税金を投入してまでEU経済圏を維持することにはどのような意味があるのでしょうか。

仮にギリシャがEUならびにユーロ圏を離脱した場合、ギリシャ通貨はユーロとの固定相場制から再び変動相場制に移行し、多くのギリシャ国債の債務は不履行(デフォルト)になると考えられます。その際には経済状況を反映して、急激なギリシャ通貨安となります。その結果、外国から輸入している商品や財の価格が高騰し、また追加の債券で資金も用意できないことから、ギリシャ国内では大幅な物価の高騰(インフレーション)が起こることになります。しかしながらそれによって財政の支出は強制的に縮小することになり、またギリシャで生産している商品が外国の商品と比べて安価となることから輸出の拡大が進みます。そうすれば国内全体としての赤字が改善する可能性があります。
上ノ山 賢一

上ノ山 賢一

確かにこの意見は経済の再建に関する1つの提案として考えられますが、EUの各国は債務不履行の国際的な連鎖による悪影響を懸念しています。EUでは南欧を中心に国家財政のバランスシートが悪化している国がいくつかあります。各国とも財政を維持するために大量の国債を発行し、ギリシャの国債を含めてそれをEU全体の金融機関で保持している状況です。ここでギリシャのEUの脱退を認め、債務不履行が行われてしまった場合、他の財政悪化国の金融機関の経営が悪化し、その国の経済の先行き不安と合わせてデフォルトの連鎖が起きてしまうという予測が起こります。そのため、それらの国の国債価格が下落してしまい、実際には維持可能なバランスであったにも関わらず、先の金融危機と同様以上の悪影響がもたらされてしまうという恐れがあります。それを避けるためにEUは、EU全体としての資本増強を通じて体制を維持し、信用不安を払拭させようとしています。

またこうした財政悪化によるEUの離脱は各国の国債に対する信用不安だけでなく、制度におけるモラルハザードをもたらす可能性があります。ギリシャを始め各加盟国はEUの参加の際には申請のための協議や国民投票を通じて、制度への参加の利点と欠点を理解していたはずです。それにも関らず、EUに加盟することで経済的な利益や援助を受ける一方で、経済が悪化し財政健全化の枠組みが維持できないのなら離脱すればよいという考えが浸透してしまうと、EUの体制を支えている側の国民において制度を維持するインセンティブが形成されません。その結果、経済援助を中心とした一部の制度の意義やEU全体としての制度の利益そのものの前提が崩れてしまう恐れさえあります。

以上のことから制度を維持するためには、その制度に対する信用が重要だということがわかります。その信用を形成するには、各個人が他国の人々と制度を通じて如何に関わり、何をそこで享受し、何が制限されているのかということを深く認識する必要があります。その一方でまた、制度の指針の決定に重要な役割を果たす政治家が、共同体の中に生きる国民がその意義をどのように捉えているかということを上手く汲み取ることも重要であると言えるでしょう。

上ノ山 賢一上ノ山 賢一
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