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教員の現代経済ウォッチング

Vol.52 経済学部、知の協働を

最近、「TIME」という映画を観る機会があった。時間が唯一の通貨となった近未来の社会を描いた映画である。この映画の1シーンで、1809年2月12日というダーウィンの生誕年月日がパスワードになっている、膨大な「資産(時間)」がストックされている金庫が出てくる。この映画のいわば核となるコンセプトを表現したシーンであった。
25歳まで自然成長し、25歳になった途端、体内に組み込まれたボディ・クロックが作動し余命を刻み始める。肉体は25歳のままである。命を長らえるためには、労働によるか、人から略奪するか、ギャンブルで勝つか、「正当」な経済行為によるかして、通貨である時間を獲得する以外にないのである。
西村 卓

西村 卓

そういった経済関係のなかで、民族や宗教によるのではなく、持てる者=富裕ゾーン、持たざる者=スラムゾーンといった「棲み分け(すみわけ)」がおこなわれ、両ゾーン間での自由な行き来は原則禁止されているのである。
上記の金庫は、 もちろん富裕ゾーンに住む資産家、そのなかでもトップの資産家のもので、彼らの信条がダーウィニズム(適者生存、優勝劣敗)に根ざしていることを暗示しているのである。
そういった殺伐とした社会関係のなかで、富裕ゾーンに侵入したスラムゾーンに居住するジャスティン・ティンバーレイク演ずる主人公ウィルは、時間監視人(タイムキーパー)に追跡されながら、アマンダ・セイフライド演ずる資産家の娘シルビアを人質に取り、その金庫から資産を略奪し、それをスラムゾーンに住む住民に無償で分配するというストーリーなのである。
どちらかというと、水戸黄門、ネズミ小僧次郎吉、遠山の金さん、イングランドのロビンフッドのような単純な勧善懲悪的ストーリー展開に少し辟易(へきえき)気味ではあったが、この映画で想定される時代や社会経済関係が、実に奇妙に今の様々な問題と結びついているようで、その点で興味が尽きなかったのである。

富裕層と貧困層との「棲み分け」という意味では、鉄道によって結ばれた多民族社会のロサンゼルスを彷彿(ほうふつ)とさせるし(実際、この映画のロケはロサンゼルスで行われている)、昨年ニューヨークを中心に起こった“Occupy Wall Street”の運動で主張された“We are the 99%”にみられるような、1%の富裕層と99%の貧困層の存在、いわゆる新自由主義的色彩の濃い格差社会を想起させた。
目指すべき社会の在り方として、様々な議論があることを承知の上で言うなら、少なくともこの格差を黙過するのではなく、その格差の存在を認め、そのための社会政策、経済政策が適切に実行されることの必要性を、この映画は暗示しているように思えてしようがなかった。
映画館を出てふと我に返った時、格差社会論やベーシック・インカム論など、こういった時代状況を読み解き、あるべき社会を予測し、そのための政策的提言をしている教員が、わが経済学部のなかに少なからず在籍していることに気づいた。経済学が社会科学としてさらなる輝きを放ち、経済学部が元気を取り戻すためには、経済学部教員の1人ひとりの知を収斂(しゅうれん)し、その協働のもとで、新しいレベルでの躍動感ある研究と教育を創造する以外にないと確信した。

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