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教員の現代経済ウォッチング

Vol.54 脂肪税と時間割引率

経済学では、様々な政策が議論される。その中には少し奇妙に感じる政策もある。その一つに「脂肪税」がある。脂肪税とは飽和脂肪酸を多く含む食品に対して課税する政策のことである。アメリカなどの富裕国では肥満の増加とそれに起因する医療費の増大が大きな問題となっており、脂肪税はその対策として検討されている。

伝統的な経済理論の立場からは、脂肪税のような肥満への政策的介入は否定される。というのも、伝統的な経済理論では合理的な人間を想定しているため、肥満もまた合理的な意思決定の結果と考えられているためである。すなわち、人々は「太ってもよいから、好きなだけ食べている」のである。そのため、脂肪税の導入は肥満を減らすかもしれないが、高脂肪食品を食べる楽しみを奪うことで人々の幸福度を下げる可能性が高く、導入すべきでないということである。
小田 勇一

小田 勇一

しかし、最近の新しい研究の結果を踏まえると脂肪税が肯定される可能性がある。その際に鍵となるのは「時間割引率」である。時間割引率とは人々が将来に比べて現在をどれだけ重視するかを表す程度である。たとえば、現在の1万円と1年後の1万円2000円が同等の価値を持つ人がいれば、その人の時間割引率はおおよそ年20%であると考える。この時間割引率が高い人ほど将来よりも現在を重視していると考えられる。伝統的な経済学では、時間割引率が時間に対して常に一定であることを想定している。そのような人は、時間がたっても望ましい行動が変わらない合理的な人であり、将来の肥満のリスクを適切に考慮して現在のカロリー摂取量を決めていると考えられる。

しかし、2005年に大阪大学でなされた実験で、人間は近い将来に対する時間割引率は遠い将来のことを考えるときよりも高くなることが確認された。つまり、人は目先のことを考えるときによりせっかちになるのである。時間を横軸にすると、このような人の時間割引率は双曲線(反比例のグラフ)となる。そこで、この時間割引率は、「双曲割引」と呼ばれる。「双曲割引」を持つ人は、好きなことを早くし嫌なことを後回しする非合理的な傾向がある。そのため、後先考えず高カロリーな食事をとり肥満になる人が出てきてしまう。そこで、脂肪税の導入により肥満を減らすことは人々の非合理的な行動を減らし幸福度を増す可能性がある。

このように時間割引率によって人間の行動は大きく変化する。それに伴い、適切な政策も変わってくる。この双曲割引は肥満以外にも、カード破産の問題やタバコやギャンブルに対する中毒の分析にも応用されている。今後の発展が期待される。

小田 勇一小田 勇一
 
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