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教員の現代経済ウォッチング

Vol.55 持続可能性と「僕の船」

本欄で前回取り上げられた「将来に比べて現在をどれだけ重視するか」という時間割引率の議論を受けて、今回は経済政策と持続可能性(sustainability)について考えます。

「持続可能な開発」(sustainable development)という概念は、国連の「環境と開発に関する世界委員会」が1987年に公表した報告書のなかに登場します。それは、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことがないような形で、現在の世代のニーズも満足させるような開発」(Development that meets the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own needs)と定義されています。つまり、今、我々がどのような政策を選択するのかは、まだ見ぬ未来の人たちと我々との対話によって決定されなければならないということです。では、どのくらい先の未来を想定したらよいのでしょうか。この課題を解決に導くためのキーワードのひとつが「物質循環」です。物質循環は、「水兵 リーベ 僕の船・・・」で覚えた窒素や炭素・・・といった物質が地球上でどのように動いているのかを分析する自然科学分野の研究テーマです。
三俣 延子

三俣 延子

たとえば、人間にも植物にも必要不可欠な栄養分のひとつにリンがあります。リンは肥料として土壌に施され、植物は土壌からリンを吸収します。我々は植物(農産物)を食べ、リンを摂取します。そして、成人の場合、そのほぼ100%を体外へ排出します。仮に、リンを含んだ排泄物を肥料として用いれば、リンは短ければ半年ほどで、土→植物→人間→土というサイクル(循環)を描きます。では、その排泄物がゴミとして処分された場合はどうでしょうか。この場合、リンは、地下水や河川を通じて海へ流れ込み、さらに、海の深くにまで達します。そうすると、その深層でリンは約1,420年間、貯蔵され続けることになります。このような物質循環の議論を踏まえて、持続可能な人間社会の在り方を考えてみます。すると、排泄物をゴミとして処分した場合は、少なくとも1,420年の間、未来の人たちはそのリンを使えないという不便をこうむることがわかります。ですから、持続可能性という観点から排泄物の処理を考えるときには、できるだけ短い時間でリンが循環できる政策を模索すべきだという結論になります。

つぎに、循環させてはならない物質について考えてみましょう。たとえば、使用済み核燃料に含まれるプルトニウム240の半減期は約6,560年です。ですから、エネルギー政策として原子力発電を選択するときには、数万年後の未来に生きる人たちの生活圏からこの物質が完全に隔離できるかどうかが問われます。ちなみに、1万〜数万年前というと縄文時代や旧石器時代です。はたして、我々は、数万年後を生きる人たちの安全を約束することができるでしょうか。

人間は地球の住人です。そして、衣食住という人間の経済活動は、地球規模の物質循環の一端を担っています。はるか未来に思いを馳せるのはとても難しいことですが、たったひとつの「宇宙船地球号」を共有するものとして、数千年、数万年後を生きる人たちからも感謝される政策を選択していきたいものです。

三俣 延子三俣 延子
 
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