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教員の現代経済ウォッチング

Vol.58 高等教育における効率と公平

現在、日本には約780校の4年制大学があります。これらの多くがより高度な教育を行う2年(修士課程)ないし5年(博士課程)の大学院を有しています。大学を経済学の視点を通してみると、大学は質の高い教育の提供と、高度な研究成果を社会に還元することを目的とした産業と考えることができます。また、高等教育をうけた労働力(人材)とすぐれた研究の成果は、経済発展の原動力となることから、急速に人口の高齢化が進み労働力が減少してゆくわが国にとって、大学は重要な基幹産業であるといえます。ところが、この大学という産業は、その効率的な運営と公平な費用の負担という点で問題がないわけではありません。
菅原 千織

菅原 千織

例えば、今春学生を募集した法科大学院73校のうち63校で定員割れが生じました。入学者が定員の半数ない35校中20校では10人未満という状況でした。政府は法科大学院に多額の補助金を与えていますが、財政赤字が大きく膨らみ、国民にさらなる消費税負担を求めるなか、定員割れの法科大学院に補助金を与え続けることに、国民の理解は得られるでしょうか。今年7月、政府は一定の条件に満たない法科大学院に対する補助金のカットを決定しました。

また、大学には国や地方自治体が設置し、運営に関与する国公立大学と、民間が設置、運営する私立大学があります。いずれも国からの補助金を受給しており、「わが国の高等教育政策と大学の市場構造-産業組織論の視点-」(『経済学論叢』第63巻、第1号、pp.65-90北坂真一2011年)によると国立大学の収入のおよそ半分が国からの資金であるのに対し、私立大学では5%に過ぎません。当然ながら、私立大学の授業料は国立大学のそれよりも高くなります。この国立と私立の授業料の違いは、公平といえるでしょうか。

米国に目を転じれば、ハーバード大学やイエール大学のような伝統校の多くは私立大学で、学士課程の授業料は日本の私立大学よりもはるかに高い年間約3万5千ドル(1ドル=80円として280万円)程度です。米国では大学生が学費を負担するためにローンを組むことが珍しくありません。日本の私立大学も世界の大学と競って質の高い教育と研究を行うには、米国並みの授業料とすることが不可避との議論もあります。このようななかで、今年3月、外務大臣は、国連人権規約「大学無償化条項」に批准するとの指示を出し、長年続けてきた留保を撤回するとの方針を示しました。

それでは、今後増大が予測される大学の費用は誰がどのように負担するのが社会的にみて公平でしょうか。学生(あるいは親など)が負担すべきでしょうか、公が負担(無償化)すべきでしょうか。国公立大学と私立大学の授業料の格差を放置すべきでしょうか。国による補助がどのようにして行われれば、産業として効率的になるでしょうか。こうした問題は経済学の重要な課題であるとともに、大学生のみなさん一人ひとりに考えていただきたい問題です。

菅原 千織菅原 千織
 
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